2026年1月7日。本年最初の出張として、福島第一原子力発電所を訪問しました。東日本大震災とそれに伴う原子力事故から約15年が経過した現在、福島第一原発は「事故の記憶を留める場所」であると同時に、世界でも類を見ない長期・高難度の廃炉プロジェクトが、今も進行し続けている現場です。

今回の訪問は、東京大学を起点とした国際的な視察プログラムの一環として実施され、事前には廃炉全体の工程、安全管理、情報公開の考え方について詳細なブリーフィングが行われました。単なる施設見学ではなく、日本が直面した危機と、その後どのように制度・運用・現場を立て直してきたのかを、構造的に理解することが目的でした。報道や資料だけでは把握しきれない「廃炉の現在地」と、「現場で何が起き、何が変わり、何が変わっていないのか」を、自分たちの目で確かめる機会でもありました。
着実に積み上がる廃炉のマイルストーン
現地では、東京電力および関係者の方々から、廃炉作業の進捗について体系的な説明を受けました。視察は厳格な安全管理のもと、あらかじめ設定されたルートに沿って実施され、専門家でなくとも廃炉全体の構造を俯瞰できるよう設計されていました。
特に印象的だったのは、以下の点です。
- 3号機・4号機の使用済燃料取り出しがすでに完了
事故直後、最もリスクが高いとされた工程の一つが、長い年月をかけて確実に達成されていました。 - 2号機における燃料デブリの試験的取り出しに成功
世界的にも前例の少ない作業であり、今後の本格的なデブリ回収に向けた極めて重要な一歩です。 - 作業環境の大幅な改善
除染や設備改良が進み、現在では敷地の約96%で一般作業服による作業が可能となっています。
これらは単なる技術的成果ではありません。かつては人が長時間立ち入ることすら困難だった場所が、厳格な管理のもとで「産業現場」として再構築されつつあることを意味しています。廃炉は数十年単位で続く長いプロジェクトですが、現場では確実に段階が積み上がっていることを、実感として理解しました。

「あと数メートル」が示す、構造的な教訓
「あと数メートルだけ、非常用電源が高い位置にあったら……」
これは弊社CEOの言葉ですが、福島第一原発事故の本質を極めて端的に表しています。事故は、想定外の自然現象だけで起きたのではありません。非常用電源の設置位置、複数系統の同時喪失、津波想定の甘さ――いずれも当時の基準や慣行の中では「合理的」とされていた判断でした。しかし、それらの“わずかな差”が連鎖し、全電源喪失という最悪の事態を招きました。
廃炉が進み、冷静に振り返ることができる今だからこそ、この事故は「特殊な失敗」ではなく、巨大インフラが抱える構造的リスクが顕在化した事例として捉える必要があると感じます。設計・運用・想定の積み重ねが、どこで臨界点を超えるのか。その問いは、原子力に限らず、あらゆる重要インフラに共通するものです。

開かれ始めた現場と、社会への還元
福島第一原子力発電所は、世界的に知られた場所であり、今なお国内外から大きな関心が寄せられています。近年、許可制ではありますが、敷地内視察の受け入れが段階的に進められているのも、その一環です。今回の視察でも、撮影・行動・情報発信について厳格なルールが設けられており、安全と透明性の両立が強く意識されていました。
この「開かれ方」には、単なる見学以上の意味があります。
- 事故を風化させないための教育・啓発の場
- 防災・危機管理・エネルギー政策を考える実地教材
- 失敗と真正面から向き合う姿勢を世界に示すメッセージ
いわゆる「ダークツーリズム」という言葉が使われることもありますが、本質は消費ではなく学習と共有です。適切な文脈整理と情報公開が進めば、福島は「負の遺産」ではなく、教訓を世界に還元する拠点になり得ると強く感じました。

当事者の記憶と、企業としての視点
弊社CEOである近藤は、震災当時は都内で勤務していました。信頼できる公式情報が十分に届かない中、不確かなWeb情報や、友人が作成してくれた放射性物質拡散シミュレーションを見ながら、「どこまで逃げるべきか」を本気で考え、動悸が激しくなったあの感覚は、今も忘れられません。

だからこそ今回の訪問を通じて、福島第一原発は「過去の事故現場」ではなく、失敗から学び続けなければならない、今も進行中の現場であると改めて認識しました。
SAKIGAKE JAPANは、防災・危機管理・レジリエンスに関わる企業として、
- 失敗を個別事象ではなく構造として捉えること
- 技術と運用、制度と現場のズレを直視すること
- 現場に足を運び、一次情報から学ぶこと
を重視しています。
福島で積み重ねられている知見は、日本だけでなく、世界中のインフラ、防災、エネルギー分野にとって極めて重要です。私たちは今後も、この「学び続ける現場」と向き合いながら、同じ失敗を繰り返さない社会づくりに貢献していきたいと考えています。
※敷地内は撮影禁止であるため、写真は南約10kmにある資料館で撮影するなど、特別な許可を得て掲載しています
Gaia Vision|災害リスクを“事前に見える化する”というアプローチ
こうした「失敗を繰り返さないための視点」を、実装として形にした取り組みの一つが、株式会社Gaia Visionが提供する気候変動・災害リスク分析ソリューション”Climate Vision / Water Vision“です。
“Climate Vision / Water Vision”は、洪水・豪雨・高潮・土砂災害といった気候変動由来のリスクを、地形・土地利用・インフラ・人口分布などのデータと重ね合わせ、地域や社会全体への影響として可視化するソーシャルソリューションです。単に「どこが危険か」を示すだけでなく、災害が発生した場合にどの機能が止まり、どの影響が連鎖するのかを事前に捉えることを目的としています。
福島第一原子力発電所事故が示したように、災害の本質は単一要因ではなく、複数のリスクが重なり合うことで顕在化します。ガイアヴィジョンは、そうした複合リスクを事前に“見える形”で共有し、意思決定を変えるための基盤として、防災・BCP・都市計画・インフラ設計など幅広い分野での活用が期待されています。
