電気も氷も安定しない離島で水産物の鮮度をどう守るか|インドネシア現地調査

インドネシア・スペルモンデ諸島 現地調査レポート

水産物の鮮度を守るためには、冷蔵庫や冷凍庫を設置するだけでは十分ではありません。設備を動かすための電力、漁獲直後に使用する氷、島外へ運ぶための物流、故障時の保守体制。これらが連続して機能して初めて、コールドチェーンは成立します。

2026年5月29日から6月18日にかけて、SAKIGAKE JAPANは約3週間にわたるインドネシア現地調査を実施しました。本調査は、東京都「グローバルサウスGX促進プロジェクト」の採択事業として進めている「オフグリッド型水産コールドチェーン輸送システム」の実証候補地を確認するために行ったものです。

なお、今回の現地調査にあたっては、株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル様に、調査旅程の設計をはじめ、現地関係者との調整や調査実施に際して多大なご支援をいただきました。この場を借りて、心より御礼申し上げます。

スペルモンデ諸島へ向かう現地調査チーム

調査先の一つが、インドネシア・南スラウェシ州マカッサル沖に位置するスペルモンデ諸島です。今回、複数の島を訪問し、漁獲後の保管方法、氷の利用状況、電力供給、港湾へのアクセス、設備の維持管理体制などを確認しました。現地を歩いて見えてきたのは、単に「冷却設備が不足している」という問題ではありませんでした。本記事では、現地調査を通じて確認した主な課題と、今後の実証に反映すべきポイントをご紹介します。

離島でコールドチェーンを構築するには、設備だけでなく、エネルギー、物流、保守運用を一体で設計する必要がある。

「電気がある」ことと、冷却設備を安定して動かせることは違う

最初に確認したのは、各島における電力供給の状況です。

冷蔵庫や冷凍庫を導入できるかどうかは、機器を購入できるかだけで決まりません。設備を毎日安定して稼働させるための電力を、継続的に確保できるかが重要です。離島では、電力が供給されていても、冷却設備を常時稼働させられるとは限りません。電力供給が不安定な環境では、停電によって保冷が中断し、水産物の品質が損なわれる可能性があります

また、ディーゼル発電機を利用する場合も、燃料の調達費用や輸送負担、設備の維持管理が新たな課題となります。今回の調査を通じて、太陽光発電と蓄電池を組み合わせたオフグリッド型システムが必要とされる理由を、現地の生活環境から改めて確認することができました。

重要なのは、単に太陽光パネルを設置することではありません。島ごとの日射条件、必要な冷却能力、稼働時間、蓄電容量、設備の利用頻度を踏まえ、電力をつくる仕組みと、冷熱を蓄えて使う仕組みを一体で設計することが求められます。

島内に設置された太陽光で稼働する照明柱

氷は使われている。しかし、必要なときに確保できるとは限らない

現地の漁師にとって、漁獲した水産物の鮮度を守る主要な手段は氷です。

一方で、氷の調達や保管は、すべての島で容易に行えるわけではありません。島内で十分な量の氷を製造できない場合、本土や他の島から氷を運ぶ必要があります。氷の調達には費用と時間がかかり、天候や船の運航状況によって供給が左右される可能性もあります。

つまり、氷を利用していることと、必要な量の氷を必要なタイミングで安定して使用できることは、同じではありません。現地で確認した保管設備には氷が収められていましたが、その姿からは、漁業者が限られた設備と資源の中で鮮度維持に取り組んでいる実態が見えてきました。

SAKIGAKE JAPANが検討しているシステムでは、太陽光発電と蓄電池を活用してPCM(特殊蓄冷材)を冷却・チャージし、高断熱ボックスと組み合わせて使用します。これにより、氷や冷凍車だけに依存せず、漁船上、離島の保冷拠点、陸上輸送まで水産物を一定の温度帯でつなぐ仕組みを目指しています。

ただし、現地の氷をすべてPCMに置き換えることが目的ではありません。既存の氷の利用方法や漁業者の作業習慣を確認しながら、氷とPCMをどの工程で使い分けるのかを設計する必要があります。

島内で確認した氷の保管状況

設備は「導入したら終わり」ではない

現地調査で強く認識したもう一つの課題が、設備の保守・運用体制です。

どれほど性能の高い冷却設備を導入しても、離島に専門技術者が常駐しているとは限りません。故障が発生した際に、誰が異常を発見するのか。誰に連絡し、どのように修理するのか。交換部品をどこから、どれくらいの時間で運ぶのか。こうした運用設計がなければ、設備は一度の故障をきっかけに使用されなくなる可能性があります。

そのため、導入時には機器の性能だけでなく、次の事項まで含めて設計する必要があります。

  • 現地運用担当者の選定と研修
  • 日常点検と清掃の手順
  • 故障時の連絡・判断フロー
  • 消耗品と交換部品の調達方法
  • 遠隔監視や技術支援の仕組み
  • 修理費や更新費を含む運営収支

これは、コールドチェーンに限った話ではありません。防災設備やBCP関連設備も同様に、「設置すること」がゴールではなく、導入後に継続して動かせる状態をつくることが重要です。離島という制約の大きい環境を調査したことで、設備の性能と同じくらい、運用と保守の設計が重要であることを改めて確認しました。

オリエンタルコンサルタンツグローバルが推進する”Smart Island Pilot Project”の製氷工場

島ごとに異なる「最適なシステム」

スペルモンデ諸島を構成する島々は、同じ地域に位置していても、条件が一様ではありません。島ごとに、人口、漁獲量、対象魚種、既存設備、港湾環境、本土までの距離、船の運航頻度、関係者の体制が異なります。

比較的港湾へのアクセスが確保されている島がある一方、小型船でしか接岸できず、設備の搬入や保守そのものが難しい島もあります。そのため、一つの標準設備をすべての島にそのまま導入する方法は、必ずしも適切ではありません。

共通して使用できる技術基盤を整えながら、各島の条件に応じて、以下を調整する必要があります。

  • 太陽光パネルと蓄電池の容量
  • PCMの必要量とチャージ頻度
  • 保冷ボックスの大きさと数量
  • 漁船上での保冷方法
  • 島内保管と本土輸送の役割分担
  • 設備の運営主体と費用負担
  • 故障時の代替手段

今回の訪問で得られた最大の学びは、「一つの正解」を各島に当てはめるのではなく、共通技術と島ごとの運用条件を組み合わせて導入モデルを設計する必要があるということです。

スペルモンデ諸島-ランジュカン島の皆様

次の実証に向けて

今後は、現地で得られた情報を基に、候補地ごとの漁獲量、輸送時間、氷の使用量、必要温度帯、電力条件などを整理し、実証システムの仕様を具体化します。実証では、設備が稼働するかだけでなく、次の観点から効果を検証していく予定です。

  • 漁獲後から市場到着までの温度推移
  • 水産物の鮮度と品質
  • 氷・燃料・輸送にかかる費用
  • PCMの再利用回数と運用性
  • 太陽光発電・蓄電システムの稼働状況
  • 現地担当者による運用・保守の実現性
  • 食品ロスとCO₂排出削減への効果

技術的に動くシステムをつくるだけでなく、現地の漁業者や事業者が継続的に利用できる仕組みとして成立させることが、本実証の重要な目的です

スペルモンデ諸島-ランカイ島の漁船群

おわりに

今回のスペルモンデ諸島訪問を通じて確認できたのは、離島の水産コールドチェーンを支えるためには、冷却設備だけでなく、電力、氷、輸送、保守運用を一体で考える必要があるということです

離島が抱える課題は、インドネシアだけに特有のものではありません。電力や物流インフラが脆弱な島嶼地域や沿岸地域において、限られた資源で持続可能な低温物流をどのように構築するかは、気候変動への適応、食品ロス削減、地域産業の強化という観点からも重要な課題です。

SAKIGAKE JAPANは、現地調査と実証を積み重ねながら、太陽光発電、蓄電池、PCM(特殊蓄冷材)、高断熱ボックスを組み合わせた「オフグリッド型水産コールドチェーン輸送システム」の社会実装を進めてまいります。

現在、水産、物流、再生可能エネルギー、蓄電池、冷熱技術、大学・研究機関、自治体、国際協力分野のパートナーを募集しています。実証への参画、技術連携、現地展開にご関心をお持ちの企業・団体の皆さまは、お問い合わせください。

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