日本海中部地震43年目が問い直す、職場・学校の津波避難計画の盲点

「昼の12時」に津波は来た

画像出典:秋田地方気象台 https://www.jma-net.go.jp/akita/data/saigai/fig_disaster/fig_disasterfig_disaster.html

1983526日、午前1159——晴天の平日正午前、秋田県沖でマグニチュード7.7の地震が発生しました。死者104名のうち、100名が津波による犠牲者でした。しかしその顔ぶれに注目すると、この災害のもう一つの本質が見えてきます。護岸工事中の作業員41名、釣り客18名、そして遠足中の小学生13名。「家にいない時間帯」に、屋外で被災した人々が、最も多くの命を奪われたのです。

あなたの組織のBCPは、「昼間・屋外・職場や学校にいる時間」の津波を想定していますか。43年目を迎える今日、この問いを改めて投げかけたいと思います。

晴天の昼間——なぜ「その時間」に多くの命が失われたのか

日本海中部地震が発生したのは、5月26日の正午直前。初夏の晴れた平日の昼間でした。この「時間帯と天候」が、被害の構造を大きく決定づけました。

穏やかな波、好天——こうした条件が重なり、当日の沿岸には作業員、漁業関係者、釣り客、そして春の遠足に来た子どもたちが大勢出ていました。地震発生から最短7分で第1波が到達するなか、津波の知識も警報も間に合わなかった人々が次々と波にのまれました

犠牲者の内訳を見ると、護岸工事中の作業員41名、釣り客18名、遠足中の小学生13名が突出しています。共通するのは「屋外にいた」「職場や学校行事の最中だった」という点です。これは偶然ではありません。人が屋外・移動中・野外作業中にいる「昼間の時間帯」という条件が、逃げる機会を大幅に奪いました

小学生13名の悲劇——「揺れが収まってから降りた」

秋田県男鹿市の加茂青砂海岸。山間部の小学校から遠足に来ていた4・5年生の子どもたちは、バスの中で揺れをやり過ごした後、お弁当を食べようと海岸へ降りたところを津波に襲われました。32名は救出されましたが、13名が帰らぬ人となりました。

引率の教員も、バスの運転手も、子どもたちも——その場の誰か1人でも津波の危険性に気づいていれば、避けられた可能性が高かった。

この事実は、「揺れたら高台へ」という知識が現場に根付いていなかったことを示しています。揺れが収まったことで「安全」と判断し、海岸へ向かってしまった。この行動パターンは、組織の避難訓練が「地震の揺れへの対応」のみに偏り、「その後の津波行動」を含んでいなかったことの典型的な結果です。

画像出典:秋田地方気象台 https://www.jma-net.go.jp/akita/data/saigai/fig_disaster/fig_disasterfig_disaster.html

あなたの組織のBCPは「昼間・屋外」を想定しているか

日本海中部地震の教訓が、今の企業・学校のBCPに問いかけるのは、「いつ・どこにいる人を」守るかという視点です。多くの組織のBCPや避難計画は、「建物内にいる従業員・児童」を主な対象として設計されています。しかし実際の業務時間を考えると、屋外にいる可能性が高い状況は決して少なくありません。

✔  現場・工事・物流・配送など、屋外・移動中の業務が多い職種

✔  昼休みに外出・外食中の従業員

✔  校外学習・体育授業・部活動中の児童・生徒

✔  海岸・河川・低地エリアでの作業・イベント

✔  沿岸部・港湾エリアに拠点を持つ企業の社員

これらのシナリオで「地震発生後、従業員・児童がどう行動するか」まで訓練・周知されている組織は、まだ多くありません。「建物の中にいれば机の下に隠れる」という知識は広まっていても、「屋外で揺れたら、まず高台へ向かう」という行動が体に染み込んでいる人は、沿岸部においてさえ、けっして多くはないのが現状です。

「昼間想定」のBCPに必要な3つの視点

日本海中部地震の教訓をもとに、組織が見直すべきポイントを3点整理します。

【視点1】従業員の「所在」を時間帯ごとに把握する
地震発生時刻によって、従業員がどこにいるかは大きく変わります。就業時間中・昼休み・外回り・現場作業中など、時間帯別の所在シナリオを想定し、それぞれに対応した行動フローを準備することが必要です。

【視点2】「海岸・河川・低地エリア」を業務場所とする場合は別途訓練を
本社・事務所の避難計画があっても、現場拠点や海岸沿いの作業場所には別の避難計画が必要です。津波到達時間が短い沿岸部では、「揺れたらすぐに高台」という反射的行動を繰り返し訓練しておくことが命を守る唯一の手段です。

【視点3】校外学習・社員旅行・屋外イベントにも津波対応手順
日常の職場・校舎を離れた屋外活動時に、津波対応手順を共有しておく組織はまだ少数です。「移動中・屋外にいる場合の初動」を明文化し、引率者・担当者が判断できる状態を作っておくことが不可欠です。

画像出典:秋田地方気象台 https://www.jma-net.go.jp/akita/data/saigai/fig_disaster/fig_disasterfig_disaster.html

「日本海に津波は来ない」——思い込みが命を奪う

日本海中部地震が起きるまで、日本海沿岸では「この海に津波は来ない」という認識が広く根付いていました。前回の津波被害は150年以上前——伝承が途絶え、「海岸に逃げれば安全」という誤った言い伝えさえ残っていたほどです。

この「思い込みによる逃げ遅れ」は、特定の地域だけの問題ではありません。「ここは内陸だから津波は関係ない」「うちは沿岸から離れているから大丈夫」——こうした思い込みは、様々な形で、様々な場所に存在します。また近年は、日本海側だけでなく、内湾・河川・低地エリアでの津波・浸水被害も相次いでいます。

BCPや避難計画を見直す際には、「自分たちの拠点に本当にリスクはないのか」を、ハザードマップと照らし合わせて確認することを強くお勧めします。思い込みではなく、データに基づいたリスク把握が、現代の防災の出発点です。

まとめ——「その時、従業員はどこにいるか」から始める防災

日本海中部地震から43年。この災害が残した最大の教訓のひとつは、「昼間・屋外・移動中にいる人々」への備えが、防災計画の中で置き去りにされやすいということです。地震はいつ起きるかわかりません。従業員が事務所の外にいる時間帯、子どもたちが校外学習中の場面、海岸近くで現場作業をしている瞬間——そのすべてを想定した計画と訓練が、組織の防災には求められています。

SAKIGAKE JAPANでは、こうした「現場に即した防災教育・訓練」の企画・運営支援を行っています。BCPの見直しや、屋外・移動中シナリオを含む防災訓練の実施についてご関心のある方は、お気軽にご相談ください。

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