2016年4月14日、熊本県益城町を震源とするマグニチュード6.5、最大震度7の地震が発生しました。
そして、そのわずか28時間後。さらに規模の大きいマグニチュード7.3の地震が再び同地域を襲い、再度「震度7」が観測されるという極めて異例の事態となりました。震度7が短期間に2度発生するという前例のない災害。さらに、地震の発生確率が非常に低いとされていた地域での出来事だったことも、私たちの防災意識に大きな影響を与えました。
この熊本地震から9年。今なお私たちが学ぶべきことは多く、忘れてはならない視点があります。
防災に関わる専門家の立場から、あらためて熊本地震の本質を振り返ります。

■ 震度7が2回。私たちの「想定」は本当に現実に即していたか
日本の地震観測史上、同じ地域で最大震度7の揺れが短期間で2回発生したのは、熊本地震が初めてです。
当初は14日の地震が本震とされていましたが、2日後にさらに大きな地震が発生し、前震・本震という新たな解釈が必要になりました。この事実は、「1回揺れたら終わり」ではなく、「複数回、予測できないタイミングで揺れる」可能性を私たちに突きつけました。
そしてもう一つ、重要な視点があります。当時の熊本地震の30年以内発生確率は「0〜0.9%」とされており、地元でも「地震の備えは後回しになりがち」だったという声が多くありました。
“確率が低いから、起こらない”は成り立たない。
災害リスクとは、「可能性の数字」よりも「影響の大きさ」で捉えるべきであることを、熊本地震は如実に示しました。

■ 被害の本質は“揺れ”だけではない:災害関連死の深刻さ
さらに、熊本地震のもう一つの大きな特徴は、災害による直接死よりも「災害関連死」が多数発生したことです。
避難生活の長期化や仮設住宅での孤独死、体調悪化、精神的負担などが重なり、発災後しばらくしてから亡くなられた方が、公式に200人以上と記録されており、死者の8割を超えました。これは、地震による建物倒壊や津波のような“目に見える被害”とは異なる、“目に見えにくい被害”の存在を強く意識させるものでした。
特に高齢化が進む地域では、避難環境や健康維持支援の体制整備が生死を分ける要因となりうることを、あらためて私たちは考えなければなりません。

■ いま問われるのは、「想像力」のある備え
熊本地震は、私たちが持っていた「災害の常識」を大きく揺るがす出来事でした。震度7が2度発生し、災害関連死が多く、発生確率が低いとされた地域で起きたこの震災は、「こうなるはず」という思い込みを覆し、備えに必要なのはデータや確率だけではなく、“もしも”を想像する力だと教えてくれました。災害の記憶は時とともに薄れていきますが、その教訓を次に活かすことこそが、私たち防災に関わる者の責務だと考えています。
2025年4月14日、熊本地震から9年。今一度、あの出来事を振り返り、これからの備えを見つめ直す日にしたいと思います。

画像出典: キロクマ!(熊本素材写真アーカイブス)